見当識障害を知る・理解する
「今・ここ・あなた」がわからなくなる — そのメカニズムとケアの実践
「今・ここ・あなた」がわからなくなる — そのメカニズムとケアの実践
見当識とは、「自分がいま置かれている状況を正しく把握する能力」のことです。
「今日は何日か」「ここはどこか」「目の前の人は誰か」——これらを無意識に処理しているのが見当識です。
これが失われると、地図も時計も持たずに、知らない場所に一人で立たされているような状態になります。
🧭
スマホのGPSが切れても「だいたいここら辺」と感覚でわかる。
見当識障害はその感覚が完全に失われた状態。
見当識障害そのものは「脳の故障(中核症状)」ですが、それによって生まれる混乱・恐怖・不安が
BPSD(行動・心理症状)を引き起こします。
見当識障害を理解することは、BPSDを理解することに直結しています。
見当識障害(脳の故障)
→ 防ぎにくい
混乱・恐怖からの行動
→ ケアで改善できる
認知症の種類によって異なる場合あり
最も早期に失われる
「いま、いつ?」
中期に失われる
「ここは、どこ?」
後期に失われる
「だれ、なに?」
時間の流れを記録・処理する脳の機能が低下し、「昨日・今日・明日」という連続性が断ち切られる。
今日の日付・曜日がわからない
「今日は何曜日だっけ…」
午前か午後かわからない。季節に合わない服を着ようとする
「仕事に行かなきゃ(定年退職済み)」「夕飯を作らなきゃ(深夜2時)」
空間把握能力と記憶(地図情報)が呼び出せなくなる。「帰宅願望」は場所の混乱だけでなく、安心できた過去の時代・場所へ戻りたい心理も大きい。
慣れない場所で迷子になる
トイレの場所がわからなくなる
「お手洗いはどこですか?」
自宅にいるのに「家に帰る」と言い出す(帰宅願望)
顔・関係性を記憶と照合する機能が低下。鏡現象は見当識だけでなく視空間認知障害も関係する別のメカニズム。
疎遠な親戚・知人の名前が出てこない
夫を「お父さん」と呼ぶ。子供を「知らない人」と思い込む
鏡を見て「知らない人がいる」と混乱する(鏡像認知障害)
心の声:「仕事に遅れる!」「夕飯を作らなきゃ!」
→ 深夜の外出・焦燥・パニック・暴言
心の声:「ここどこ?怖い」「安心できる家に帰りたい」
→ 徘徊・帰宅願望・出口探し
心の声:「知らない人が家にいる!」「襲われるかもしれない」
→ 被害妄想・拒絶・拒否・暴力
見当識を失った本人は、混乱と恐怖の中にいます。
徘徊・暴言・妄想は「困った行動」ではなく、「圧倒的な不安に対する、本人なりのSOS」です。
💡 たとえるなら:深夜の知らない街に一人で放り出された状態。
誰だって怖くて、逃げたり、叫んだりするはずです。
訂正・言い負かす
「今日は日曜日ですよ!」「ここはあなたの家でしょ!」
テスト・確認する
「今日が何日か言ってみて?」
急かす・焦らせる
「早く!」「何回言えばわかるの!」
感情に寄り添う(バリデーション)
「そうですよね、落ち着かないですよね」
さりげなくヒントを混ぜる(RO)
「今日は月曜日でゴミ出しの日でしたね〜」
安全な環境をつくる
トイレのドアに「お手洗い」と大きく貼る
ご本人:「家に帰ります。子どもたちが待ってるから。」
介護者:「そうですか、お子さんが心配なんですね。今日は遅いので、明日の朝一番に帰りましょう。」
→ 「帰れません」は絶対NG。「帰りたい」の背景にある不安・孤独感を受け止める。
ご本人:「仕事に遅れる!早く起こしてくれれば良かったのに!」
介護者:「心配してくれていたんですね。実は今日は休日で、職場からもゆっくり休んでと連絡がありましたよ。」
→ 「もう定年でしょ」はNG。安心できる理由を自然に提供する。
ご本人:「あなたは誰ですか?なんでここにいるんですか?」
家族:「○○さんのそばにいる者です。怖かったですよね、ごめんなさい。」
→ NG:「私だよ!息子だよ!わからないの?」は動揺と不信感を増幅させる。
💡 否定も無理な説明もしない。
内容ではなく「気持ち」に寄り添うのがケアの鉄則。
ドアに大きく「お手洗い」と書いたプレートを貼る。夜間は小さな照明で誘導。
見やすい場所に今日の日付・曜日を大きく表示。毎朝一緒に確認する習慣をつくる。
季節・時間帯の変化を視覚で感じられる環境が、時の見当識を助けることがある。
見当識障害がある方の世界は、「霧の中で、時計も地図も持たずに、知らない人たちに囲まれている」ような状態です。
朝目覚めるたびに「今日はいつ?ここはどこ?目の前の人は誰?」という問いに直面し続ける。
目が覚めても「今日がいつか」わからない
自分の部屋なのに「ここはどこ?」と感じる
毎日顔を合わせる家族がわからない瞬間がある
鏡を見ると「知らない人が映っている」と感じることも
私たちにできること
無理に「正しい現実」を押しつけるのではなく、
「ここにはあなたの味方がいて、安全ですよ」という安心感を
表情・声のトーン・触れ方で伝え続けることが、最も大切なケアです。
穏やかな表情・目線の高さを合わせる
ゆっくり、低く、穏やかに
正面から、広い面積で、ゆっくり包むように
女神アテナ