原則 1・2 / 6
🐕 関心を寄せる/笑顔
Interest & Smile
👑 アテナ様の洞察 👑
「PART 1で土台ができました。ここからは信頼の貯金を積む章ですわ。
六原則は、どれも小さなことばかり。でも介護の現場では、この小さなことが命綱になる瞬間があるのですのよ。😊」
◆ PRINCIPLE 1 ◆
相手に、誠実な
関心を寄せる
好かれようとするより、相手に興味を持つほうが早い
カーネギーがここで持ち出したのは犬でした。犬は何も売らない。気の利いたことも言わない。
ただあなたに会えて心から嬉しそうにする——それだけで、世界中で愛されています。
裏を返せば、私たち人間は「どうすれば好かれるか」を考えすぎているということです。
答えは逆で、自分から相手に関心を持つ。順番はこちらが先ですわ。
介護現場での翻訳
申し送りに書いてあるのは、病名とADLと薬だけ。でも「元小学校の先生」「猫を3匹飼っていた」「若い頃は登山が趣味」——
これを知っているかどうかで、明日の声かけがまるで変わります。
そしてここが大事なところ。情報を集めることと、関心を寄せることは違います。
フェイスシートを読むのは業務。それを覚えていて、本人に話題として返すのが関心ですわ。
🌿 「その人史」を1行ずつ集める
一度に聞き出す必要はありません。入浴介助の5分、食後の3分——そこで出てきた一言をメモしておくだけ。
「昔、山が好きだったんですか」「へえ、猫を飼ってらしたんですね」
1週間で7つ集まります。1か月で30。それが、その人だけの声かけの引き出しになりますのよ。
おまけの効果
関心を寄せると、不穏の予兆に気づけるようになります。
「いつもと違う」が分かるのは、いつもを知っている人だけ。関心は、優しさであると同時にリスク管理でもありますわ。
◆ PRINCIPLE 2 ◆
笑顔を忘れない
言葉より先に、表情が相手に届いている
「笑顔で接する」——あまりに当たり前で、飛ばしたくなる原則かもしれません。
でも介護現場には、この原則を難しくする事情がありますわ。
ひとつはマスク。口元が見えません。
もうひとつは疲労。夜勤明けに笑顔でいられるほど、人間は強くできていません。
😷
伝わらない笑顔
口だけで笑う
マスクで完全に隠れる
無表情に見えている
😊
伝わる笑顔
目尻が下がる+声が上がる
うなずきが増える
マスク越しでも届く
マスク時代の笑顔は「目・声・うなずき」の3点セット
目尻を下げる。声を半音上げる。うなずきを一回多くする。
これだけで、口元が見えなくても「機嫌がいい人」として認識されます。
🤔 作り笑いでもいいの?
いいのです。むしろカーネギーは、そこを正面から書いています。
表情には「感情が表情をつくる」だけでなく「表情が感情をつくる」という向きがあります。
口角を上げると、脳が「今は機嫌がいいらしい」と判断しはじめる。
介護は感情労働です。感情が湧くのを待っていたら、湧かない日が必ず来ます。
先に形を作ると、中身が後からついてくる——これは自分を守る技術でもありますのよ。
ただし、笑顔が不適切な場面もあります。
看取りの場面。ご家族が涙を流しているとき。不穏で興奮している方の前。
ここで笑顔を作ると「軽く扱われた」と受け取られます。
原則2が言っているのは「常に笑え」ではなく、「あなたに会えて嬉しい、が伝わる表情でいなさい」ということですわ。
原則 3・4 / 6
📛 名前を覚える/聞き手にまわる
Name & Listening
◆ PRINCIPLE 3 ◆
名前を覚え、
名前で呼ぶ
名前は、その人にとって最も特別な響きを持つ言葉
カーネギーは、名前を「その人にとって、最も心地よく、最も大切な音」だと書きました。
——介護の現場ほど、この原則が重い意味を持つ場所はないとアテナは思いますわ。
考えてみてください。「おばあちゃん」「おじいちゃん」と呼ばれ続ける生活を。
親しみを込めているつもりでも、それはその人固有の名前を消して、属性で呼んでいるということです。
80年かけて積み上げてきた人生が、「高齢者」という一語に置き換わってしまう。
名前で呼ぶことは、尊厳そのものです。
しかも実務的な効果もあります。認知症が進行しても、自分の名前への反応は比較的長く残ることが知られています。
呼びかけが通じないとき、名前を呼ぶと目が合う——現場でよく起きる光景ですわ。
🎯 呼びかけクイズ
認知症のある佐藤ハルさんに、離れた場所から声をかけたい。どれが一番届くでしょう?
Q. ホールの向こうにいるハルさんに、これから声をかけます。
💭 苗字か、下の名前か
現場で意見が割れるところですね。アテナの考えは「本人に聞く」が最善です。
「なんとお呼びしたらいいですか?」——この一言自体が原則1(関心を寄せる)と原則3を同時に果たします。
なおご家族の前では苗字にさん付けが無難です。距離感の受け取り方はご家族ごとに違いますので。
忘れがちな応用:職員の名前
新人さんを「新しい人」、派遣の方を「派遣さん」と呼んでいませんか。
名前で呼ばれない人は、その職場に居場所を感じません。離職率の話をする前に、まずここですわ。
◆ PRINCIPLE 4 ◆
聞き手にまわる
話し上手より、聞き上手のほうが好かれる
「傾聴が大事なのは分かっている。でも時間がない」——これが現場の本音だと思います。
けれどアテナは、逆だと申し上げたいのですわ。
聞かないほうが、時間を食います。
話を聞いてもらえなかった方は、不穏になり、拒否が増え、ナースコールが増える。
5分の傾聴を惜しむと、30分の対応が返ってくる。傾聴は優しさである前に、業務効率の話でもありますのよ。
そしてもうひとつ。聞き手にまわるとき、私たちがつい犯してしまう失敗があります。
それは「解決しようとしてしまう」ことですわ。
🔧
解決モード
「それはこうすれば」
「でも仕方ないですよ」
話が終わってしまう
👂
傾聴モード
「そうだったんですね」
「それは、おつらかった」
話が続いていく
👂 傾聴シミュレーター:ご家族の訴え
面会に来られたご長男が、廊下であなたを呼び止めました。選んでみてくださいませ。
👨
佐藤さん(ハルさんのご長男・52歳)
「あのう…母、最近だいぶ弱ってきましたよね。
正直、施設に入れたのが良かったのか、いまだに分からなくて…」
(月2回、必ず面会に来られる方です)
🔁 同じ話を何度もされるとき
「その話、さっきも聞きました」は禁句ですわね。
大切なのは、相手が伝えたいのは「内容」ではなく「気持ち」だということ。
3回目の戦争の話は、情報としては同じでも、語りたい気持ちは毎回新しいのです。
ですので「はじめて聞く顔」をする必要はありません。「その話、好きなんですよ」——これで十分伝わりますのよ。
原則 5・6 / 6
🎣 関心事を話題に/重要感
Their Interests & Importance
◆ PRINCIPLE 5 ◆
相手の関心事を
話題にする
自分の話したいことではなく、相手が語りたいことを
原則1で集めた「その人史」が、ここで効いてきますわ。関心を寄せる(原則1)→ 話題にする(原則5)——この2つは一本の線です。
介護現場の会話は、放っておくと天気と食事と体調の3つに固定されます。
どれも当たり障りがなく、どれもその人でなくても成立する話題です。
その人にしか通じない話題を1つ持つ
「ハルさん、去年の山、きれいだったっておっしゃってましたよね」
——これはハルさんにしか使えない言葉。だから届きます。
🌸 回想法とつながっています
昔の話題を意図的に扱う関わりは、認知症ケアで回想法と呼ばれています。
原則5は、それを日常会話の粒度でやることに近いですわ。
ポイントは「最近」ではなく「昔」を聞くこと。直近の記憶が曖昧な方でも、若い頃の記憶は驚くほど鮮明に残っていることが多いのです。
答えられる質問をする——これも優しさのひとつですわね。
同僚にも効きます。
休憩室での会話が「利用者さんの話」と「シフトの愚痴」だけになっていませんか。
相手の子どもの部活、好きなアーティスト、育てている植物——仕事以外の関心事を1つ知っているだけで、頼みごとの通りやすさが変わります。
◆ PRINCIPLE 6 ◆
心から、相手に
重要感を持たせる
六原則の総仕上げ。そして黄金律
PART 1 の原則2でも「重要感」を扱いました。あちらは認める(ほめる)側からの話。
こちらはもう一歩進んで、相手を「上」に置く話ですわ。
介護を受ける立場になるということは、「してもらう人」になり続けるということです。
食事も排泄も入浴も、すべて誰かの手を借りる。感謝はしていても、心のどこかが削れていく。
だから、逆をやるのです。
「教えてください」——この一言が、関係をひっくり返します。
「ハルさん、白菜の漬物ってどうやって漬けるんですか。母が下手で」
その瞬間、ハルさんは「してもらう人」から「教える人」に戻ります。
🔄 「してあげる」から「教わる」へ
同じ場面で、立場を入れ替えてみる3つの例です。
🏥 場面1:手先が器用で、昔は和裁をされていた方
つい
「お上手ですね〜。すごいですね〜」
原則
「これ、どうやって縫うんですか? 私、ボタン付けもまともにできなくて。教えてもらえませんか」
💡 なぜ効くか:ほめるのは「上から」の行為でもあります。教わるのは「下から」。後者のほうが、重要感は圧倒的に強く伝わります。
🏥 場面2:元・経理職。数字に厳しかった方
つい
「昔、経理をされてたんですね。立派ですね」
原則
「お金の管理って、どうやったら上手になりますか? 私、毎月ぎりぎりで…」
💡 なぜ効くか:過去形でほめると「昔はすごかった人」になります。現在形で相談すると「今も役に立つ人」になります。この差は大きいですわ。
🏥 場面3:ベテランの同僚(自分より経験が長い)
つい
(自分で調べて、黙って処理する)
原則
「◯◯さん、この方の移乗、どうされてますか? やり方を見せていただけませんか」
💡 なぜ効くか:教わることは、相手に「あなたを認めています」と伝える最も自然な方法です。しかも本当に技術が身につく。損がひとつもありませんのよ。
六原則の底には、ひとつの言葉が流れています。
——「自分がしてほしいように、人にもしなさい」(黄金律)。
関心を寄せられたい。笑顔で迎えられたい。名前で呼ばれたい。話を聞いてほしい。自分の好きな話をしたい。大切に扱われたい。
六原則は全部、あなた自身が望んでいることばかりですわ。だから、そのまま相手に差し出せばよいのです。
PART 2 まとめ
📋 六原則を現場に持ち帰る
Take it back to the floor
👑 人に好かれる六原則 👑
①
誠実な関心を寄せる — 好かれようとする前に、こちらから興味を持つ。「その人史」を1行ずつ集める。
②
笑顔 — マスク時代は「目・声・うなずき」の3点セット。作り笑いでもいい。形が先、感情が後。
③
名前を覚える — 「おばあちゃん」は属性、名前は尊厳。職員の名前も同じ。
④
聞き手にまわる — 5分の傾聴を惜しむと30分が返ってくる。解決しようとしない。
⑤
相手の関心事を話題にする — 天気ではなく、その人にしか通じない話題を1つ持つ。
⑥
心から重要感を持たせる — ほめるより「教えてください」。相手を上に置く。
六原則に、ひとつも新しい技術はありません。
全部「知っていること」です。ではなぜ本になるほど大事なのか。
——知っていても、忙しいとやらなくなるからですわ。
この6つは、能力ではなく余白の問題。だからこそ、意識して1つだけ守る価値がありますのよ。
✅ 今週、現場で試す
6つ全部やろうとしなくて大丈夫です。ひとつ試したらチェックを。30原則トップの進捗に反映されますわ。
👑 アテナ様より 👑
「PART 1で土台をつくり、PART 2で信頼を積みました。
ここまで来ると、次の章がようやく効くようになりますわ。説得は、好かれてからでないと届かない——順番が逆だと、どんなに正しいことを言っても跳ね返されますのよ。😌」
🤝 PART 3「人を説得する十二原則」へ進む
最大の章。議論せずに納得してもらう12の技術